2年振りに来日 ホルプ先生講演会「ヨーロッパの新たな地政学的状況」2023年1月14日 

プラハで各国の留学生向けに教鞭をとられているホルプ先生の2年ぶりの来日がかないました。協会目黒の友好協会事務所のビルの一階「芸術家の家」スタジオで対面形式の講演会を開催。多数の会員の参加がありました。講演後は近くのイタリアンで懇親会が行われました。

講演会は終了しました。当日の公演概要は友好協会の高橋会長によりコメント欄で紹介されています。

タイトル: 「ヨーロッパの新たな地政学的状況」

       " The new geopolitical situation in Europe, including the last developments in the EU"

              (講演までにヨーロッパで予期せぬ状況が起これば、変わることもあります。)

日時: 2023年1月14日(土)16:00 より

場所: 「芸術家の家」スタジオ(品川区上大崎3-14-58 クリエイト目黒 1F)

参加費: 会員1000円 非会員2000円(懇親会費用は別途、4000円程度) 当日徴収

2年振りに来日 ホルプ先生講演会「ヨーロッパの新たな地政学的状況」2023年1月14日 ” に対して1件のコメントがあります。

  1. Yukihiko Murata より:

    第二次世界大戦後の世界における地政学的状況の推移
    ― ホルプ先生の講演を聴いて― 
    髙橋恒一

    1月14日、約25名の皆様にご参加していただき、3年ぶりにカレル大学のホルプ先生による対面形式での講演会が開催されました。演題は「欧州における新たな地政学的状況」で、1950年から現在に至る世界における地政学的状況の変化を概観した上で、ウクライナでの戦争の背景と今後について考察するというスケールの大きな興味深い内容のお話でした。先生は、お元気そうで以前と変わらぬ熱弁を振るわれ、質疑応答も活発に行われました。以下に概要を報告します。

    自分が小学校に入学した1950年と現在の世界における地政学的状況を比較してみると、国の数と各国の人口が大幅に増加していることが注目される。例えば国連加盟国数は、50ケ国から193ケ国に、またインドの人口は3,5億人から14億人へとそれぞれ大きく増加している。更に特筆すべきは、1950年から現在までの間、世界においてはいつもどこかで戦争が戦われていたということである。第二次世界大戦後の時期は一般的に「冷戦時代」と呼ばれているが、「冷戦」は米国とソ連の関係についてのみ言えることで、朝鮮、アルジェリア、ベトナム、イラク、ユーゴ、アフガニスタン及びシリア等での戦争は、「冷戦」ではなく「熱戦」(hot war)である。

    1950年以降に世界各地で起きた一連の戦争には、一般人の犠牲者の多さ(全体の約9割)、インフラへの攻撃と破壊、戦争犯罪の横行、プロパガンダの流布と検閲の実施、敵側の文化に対する憎悪などの特徴が見られる。

    第二次世界大戦後、国連の常任理事国となった米国、ロシア、英国、仏、中国の5大国は、残念ながら1950年以降の戦争に何らかの形で直接・間接に加担してきた。ただ希望を抱かせる時期もあった。自分が大使としてイタリアに在勤した1990年からの2年間には米ソ間のいわゆるデタントを背景に「新しい欧州の組織構造」(new European architecture)が建築され新しい時代が始まるのではないかという期待が高まっていた。

    しかしながら1992年から93年にかけてユーゴ、南ロシア、チェチェン、コーカサス等の地域で再び戦争が始まった。EUは東方への拡大を続け、1989年以前は12ケ国であった加盟国数は、現在28ケ国に増加している。しかしながら「欧州」の定義は明確でなく、どこまで拡大するのかについては、何も決まっていない。NATOは、当初は拡大しないとの立場で、米国はNATOを1インチたりとも拡大しない(no inch more)と言っていた。しかし旧東欧諸国がNATO加盟を強く望んだこともあり、NATOは方針を変更し、ロシアの反対にもかかわらず東方へ拡大していった。そしてNATOの拡大を危惧するロシアの行動によりコーカサスとバルカンにおける混乱が始まった。特にウクライナは、ロシアとEU・NATOとの中間地帯に位置する欧州最大の国(人口は4000万人だが面積は独の2倍)であり、ウクライナ人、ロシア人、ハンガリー人、ポーランド人等が住む多民族国家として大変複雑な歴史を有しているため、その去就が注目されていた。こうしたすべての経緯を背景として2022年2月24日にロシアはウクライナに侵攻した。かくして我々は現在ウクライナにおいて既述の1950年以降の戦争と同様の特徴を有している悲惨な戦争に直面している。

    ウクライナでの戦争により共にユーラシア大陸の一部であり、これまで緊密に経済交流が行われてきた欧州とロシアの間に新たな境界線が出現することになった。そしてそのことによりEU諸国は極めて大きな経済的困難に直面している。まずロシアに対する経済制裁は、諸刃の剣であり、ロシアだけでなくロシア産天然ガスに対する依存度の高い独やバルカン諸国の経済にも大きな打撃を与えている。またEU諸国は多くのウクライナ避難民を受け入れつつ、同国への経済的支援を行っているが、これによりインフレが昂進し、国民の生活を圧迫している。今のところEU諸国はある程度まとまっているが、各国とも国内的には色々と意見の対立を抱えている(例えばスウェーデンの連立与党内における外国人受け入れ政策についての対立等)。更に米国においても、共和党の一部にウクライナへの軍事的支援への慎重論が出てきている。

    ウクライナでの戦争を終結させる方策としては、和平と停戦といずれかの側の降伏の3つの可能性が考えられる。朝鮮戦争とベトナム戦争においては、前者で3年、後者で10年以上戦いが続いた後に、外交交渉により敗者のない形で停戦が実現した。いずれの場合も外交交渉の目的は、和平の実現であったが、実際には停戦交渉となった。自分はウクライナについても外交交渉による解決を希望する。しかしながら朝鮮とベトナムの先例更にはウクライナでの戦況と関係国の意向等を考慮すると、交渉が始まるまでにはまだかなりの期間(場合によっては5,6年)が必要となるかもしれない。外交交渉となる場合には、ロシアとウクライナの他、米国、EU, トルコ、イスラエル等の関係国が円卓を囲んで交渉することになるのではないか。交渉の場所については、これまでよく交渉地となったヘルシンキは、フィンランドがNATO加盟を申請しているので、適当でなく、ウイーンについては、ウクライナがオーストリアの対応に不満を持っていると言われており、どうなるか現時点では分からない。

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